「我ら…の声を、聞け…」
―Episode.9
ルーク達から離れたは一人おぼつかない足取りで洞窟の奥へと進む。
時折口から漏れる言葉には力はなく、音だけがはき出ていた。
辺りの様子は相変わらず何かの研究施設のような風景が続いており凡そ洞窟とは思えない。
―意思と行動が不確定だ…。私は、私が行きたいのはこちらではないのに…。
片手を壁につき、もう片方の手を額に当てて何かに導かれるように進む。
その間も彼女の脳内に侵入し流れる声は止むことなく思考回路を侵食していった。
『我らの嘆き…』
「我ら、の嘆き…」
『風の謳歌を聞けぬこと』
「風、の、謳歌を、聞けぬ、こと…」
例え耳を削いで聴覚を失っても浸透してきそうな声を、意思と反して鸚鵡返しに口から零す。
―頭が、割れそうだ…
―私が、私でなくなる…!
「……っ…!」
そこでいきなり、操り人形の糸が切れたかのようにどさりとその場でひざを着いた。
それと同時にパッという音が鳴り周囲が一気に明るくなる。
不明瞭だった視界へ急激に差し込む光に目が慣れ、は辺りを見渡した。
そこは今まで以上に見たこともないような高度な譜業装置がいくつも並んでいた。
それらはその場の中心にある、大きな円柱形の透明なガラスケースのようなものを取り囲むように設置されている。
そのケースのような物の中で球状の物体が怪しげに煌々と白色の光を放ちユラユラと蠢いていた。
「お前…か、ずっと私の中に、声を流していたのは…。」
前方の光を睨み付けながら、息を荒く吐きつつもゆらりと立ち上がる。
『そうだ、ようやく我が手中に戻ってきたか。』
光が応えた。
透き通っているようで居てそれでも聞こえのよくない半濁した光の声が周囲に響く。
『我が命令を無視し彷徨い続けていたお前に、よもやこのような害が生じるとはな。』
「害…?」
「!!」
力なく問い返したところで、後方からルークたちが追いついてきた。
先頭を切っていたルークがの背中に呼びかけると、彼女は顔だけを数秒ルークたちに向けるとまた正面の光に返る。
「心配したんだぞ、いきなり居なくなるから。ってか、なんだこれ!?」
「さっきあの変な光の玉みたいなの喋ってなかった?!」
ルークとアニスがの側へ駆け寄り安否を気遣いながらも目の前にそびえる譜業の山に目を見開く。
ナタリアやティアも同じように周囲を見渡した。
「…おそらく、この洞窟内にある譜業装置のもっともメインの物でしょう…。」
数秒ルークたちより遅れて着いたジェイドがそう言う傍らで、ガイが苦しそうな表情を浮かべるを見て、正面の光に鋭い視線を送った。
『流石に鋭いな。死霊使いジェイド。』
「また喋った!!」
「…一体、なんなんだアンタは。」
アニスが驚いている後方でガイが低い声で問う。
『我は…我らは、誇り高き翼を持つ者…プルーマ・ラペルソナ族』
「…聞いたことありませんわ…」
『当然であろう。我ら一族は300年近くもの昔にマルクトによって消滅させられたのだからな。』
「!?…どういうことです。たしかマルクト史ではその一族はマルクトに大きな災いを齎した報復のために戦争を起こし敗北したと残っているはずです。」
ジェイドが驚きを隠せない様子で口を開いた。
『歴史など、残す者の手により簡単に改竄できる。
マルクトの人間共は我ら一族が持つ人知を超えた高い技術と知能、そして譜術を恐れ根絶やしにした。
我らはマルクトの人間にもキムラスカの人間にも干渉しなかった。我らは我らの技術を生かしひそかに暮らしていたというのに。
我らの背に持つ翼を「悪魔」と称し子供も老人もかまわずに、切り刻み、焼き払い…我らが消えるのに時間はかからなかった。』
「そんな…ことが…」
『それだけではない。我らを滅ぼした後初代マルクト皇帝はこう言った。
「マルクトに害をなす悪の芽は摘み取った、この報復も一族の殲滅もすべて預言に詠まれたものである」と。
だが実際はそのような預言は存在しなかった。己が業を正当化するための虚言だったのだ。』
今まで一定の音域を保っていた光の声が初めて揺らいだ。
『我らは死に際に復讐を誓った。その我らの復讐への強い渇望と人間に抱いた憎しみや恨みは収束し、「思念」という形で今ここに在る。
我らの思念は周囲の音素も巻き込み収束した音素が我らに力を与えた。そして我らはマルクトの人間がしたように、マルクトの者が住む場所を消そうとした。
だが、その為には、我らが持つ力を具現化する媒体が必要だった。』
「…まさか…は…」
行き当たってしまったひとつの結論を最後まで言い切れずにガイは言葉を濁した。
『そうだ、ソレこそ我らが求めていた復讐の兵器…!長年の失策を繰り返しようやく完成したのだ…!』
「じゃあ、もしかしてこの洞窟の入り口のほうに転がってた人形みたいなのって…」
『今まで我らが廃棄したゴミだ。どれにも欠陥が生じ使い物にならなかったからな。…だが』
アニスの独り言のような問いに答えたところで光の思念は言葉を切った。
『ここに来て、…ようやく小さな村を消したところで、ここから我らの復讐が始まるというところで、ソレにも障害が発生した。』
「…障害?」
の肩を支えていたルークが不思議そうに光に聞き返す。
『その兵器に感情と意思が芽生えてしまったのだ。』
淡々と言い放った光の言葉にガイの表情がさらに険しくなった。
「それが『障害』だっていうのか…?」
『そうだ、兵器はただ我の命に従い破壊すればいい。そのようなもの不必要だ。
それらが目覚めてしまった影響で我からの命の声は遮られ、勝手に徘徊するようになったあげくマルクトの兵に捕まった。
その時ばかりは我の力を増幅させたことで脱したが、結局その後は村を消すこともなく人里から離れ我の命を叛き続けた。』
「ではまさか、数年前マルクトの兵を皆殺しにして脱走したのも、彼女があらゆる事に不可解なまでに精通していたのも…。」
『無論すべて我がさせたこと。ソレには我ら一族の持つ知という知をすべて詰め込んである。』
―『知っている理由がわからぬ。何故か知っていた、としか私にも言えない。』
『…本当にわからないんだ。私の何が今の私を確立させているのか。
己のことなのに、なにもわからない。…最近の私は、ひどく不安定だ。』
光の答えを聞くとジェイドは一瞬での言葉を思い返し、なにか思案するように眉間にしわを寄せそのまま黙りこくった。
「酷い…めちゃくちゃですわ…!は兵器でも貴方の操り人形ではありません!!」
『「酷い」…だと?では、過去マルクトがわれわれにした仕打ちも、我らの味わった苦しみも酷くないと言うのか…!!
我らが何をした!!我らはただひそかに、平穏に暮らしていたかっただけだというのに!』
「それは…」
ナタリアの言葉に、光は急に言葉を荒上げた。それに呼応するかのように周囲の譜業装置も不気味な機械音を立てる。
『兵器に感情も意思もいらぬ…!ただ我が命に従い滅ぼしつくすだけでいいのだ!!』
そこで突然光の周囲から何十本もの黒いコードのようなものがに向かって急速に伸びてきた。
それらは彼女の腕や足や腰に絡みつきそのまま光のほうに強い引力が働く。
「…やめろ…!離せ…!!」
「!」
ルークの手を簡単に振りほどきの体は光の真横にまで運ばれた。
とめようとしたルークの言葉と手がむなしく空振る。
あまりに強い反動で仮面がカランと音を立て振り落とされた。
「何をする気だ!を放せ!」
ガイが剣を抜き地を蹴り光に向かって切りかかった。
『邪魔をするな…!』
「うわっ…!!」
「ガイ!」
光の強い声とともに衝撃波が生じてガイをルークのほうへと吹き飛ばした。
ルークは仰け反りながらもガイを支える。
『感情など…!意思など消してしまえばいい…!!もう一度我の兵器として蘇れ…!!』
光がそう言い放つと同時にコードのようなものが光を放ち始めの中に急速に流れ込んだ。
「!?くっ…!う、あああああああ!!」
両手で頭を押さえ苦しそうに声を上げ体をかがめる。
徐々に体内に送られる光は強さを増し、やがて自身が白く光り始めた。
「!」
強い光に包まれ姿が見えなくなった所へガイが叫ぶように名を呼ぶが声は届かない。
あまりのまぶしさにルークたちは自分の腕で視界を覆った。
周囲が白光に埋め尽くされるとキィィィンという不可解な、耳鳴りのような音が響いた。
数秒後、パァンと何かが弾け飛ぶような音とともに光がゆっくりと収まっていった。
「…何が起きたんだ…?」
「ちょ、前見て!!」
眩む目を押さえながらアニスの言葉に従い視線を送る。
全員が息を呑んだ。
「…?」
ティアが確かめるように名を呼んだ。
ルークたちの目の前には白く長いひらひらとしたワンピースのような物を纏い、色のない目を向けるの姿が映った。
手にはレイピアが握られ、彼女の周りを取り巻くように風が吹いていた。
その風に身を任せるように、白い羽が雪のように舞っている。
「背中のあれって、もしかして、翼?」
「あれが、プルーマ・ラペルソナ族の姿なんでしょう…。かつてマルクトが『悪魔』と呼んだ…。」
目の前に広がる光景にアニスが呟くと、ジェイドが冷静に、それでいて驚愕を抑え切れないような声で答えた。
『…はははは!成功だ!!完成したときと同じだ!さぁ、再び我に従いマルクトを滅ぼすのだ!』
「嘘だろ、がそんな…!」
「・・・・・。」
ルークが縋るように声をかけるがは黙ったまま生気のない目を向けるだけだった。
『手始めに邪魔なこいつらから消せ。』
「・・・・・。」
背の翼が左右に大きく開いた。
同時に竜巻に巻き込まれたような風が吹き荒れる。
「うわぁ!!」
「!俺たちがわからないのか?!」
吹き飛ばされないように踏ん張りながらガイが声を上げる。
しかしは顔色を変えるどころかそのガイの元へ瞬時に飛びレイピアを振り上げた。
「くっ!」
間一髪でガイは自分の剣を当てて鍔を迫り合わせる。
下から見上げてくる色のない彼女の目と視線が合った。
「…消えろ…」
「・・・・・!」
低い声でがそう言ったと同時にガイが後方へ吹き飛んだ。
ガイは空中でくるりと体を回転させ、体制を整えて着地する。
その様子を見ていたジェイドが険しい視線で槍を取り出して構えた。
「…どうやら本気のようですね。反撃しなければ殺されますよ。」
「と戦えるかよ!!」
ジェイドの言葉にルークが反論した。
その一瞬の間には今度はジェイドに切りかかる。
キィン!と槍とレイピアが音を立てた。
「では、このまま大人しく殺されますか!?ここで彼女を止めなければ、彼女は20年前のノーリアの時のようにどこかの村を消滅させますよ!」
槍を斜めに構えてのレイピアをはじき返しながら厳格な声色で言った。
「でも大佐…!うわあっ!!」
「アニス!」
アニスが風圧で吹き飛ばされる。
後ろにいたナタリアが転びそうになりながら受け止めた。
その隙に乗じるようにが突きかかってきた。
「、お願い!もう止めて!!」
二人を庇うようにティアが前に立ちはだかりロッドで受け止める。
しかし剣圧が重すぎて頬や肩に赤い筋が走った。
「ティア!くそ!どうすりゃいいんだ!!」
ティアが負傷したことに気づきルークは思わず剣を抜いた。
それを見たは瞬時に目標を変えてルークに向かって飛ぶ。
ルークの頭上から切り掛り鋭くも重い一閃を浴びせる。それをギリギリで弾くが反動でルークがよろめいた。
そのまま今度は足元からレイピアを振り上げる。
「っ、やっべぇ!!」
ルークは受け止め切れず壁に吹き飛ばされ背中を強く打ちつけた。
「ルーク!」
「っってぇ…!」
ガイが駆け寄り助け起こす。ルークが唸りながら後頭部をさすった。
はそこで一度ルークたちから離れた。
そのまま思念の光の側に戻り、天井ギリギリの所で羽ばたいていた。
「我らの嘆き、風の謳歌を聞けぬこと。」
「こ、今度は何?!」
小さくはっきりとした声で何事か呟きだす彼女にアニスがナタリアに支えられたまま口を開く。
「我らの悲しみ、母なる海の抱擁を受けられぬこと。」
一言一言呟くごとに風が唸りを包む。
―この異常なまでの音素の収束と増幅…。…まさか…!
何かに気づいたジェイドが前方に飛び出した。
「ジェイド?!」
「我らの苦しみ…」
「旋律の戒めよ…死霊使いの名の下に具現せよ。ミスティック・ケージ!」
言葉を遮るようにすばやく詠唱を終えると強大な光が巻き起こりの風を打ち消すように取り囲んだ。
そして光は彼女の元に一気に収束すると同時に暴発した。
「!」
その爆発に巻き込まれたの体は後方に吹き飛んだ。
バキバキと打ち付けた衝撃で背後の譜業機器までが壊れその残骸の中にが転がるように横たわった。
「え…?た、大佐?」
倒れたまま動かないを見てアニスが伺うようにジェイドに向き直る。
ジェイドは小さく肩で息をしながら前方から視線を外さなかった。
「ジェイド!!」
ガイがジェイドに走りより掴み掛かった。
「アンタ…!本気でを殺すつもりか!!は操られてるだけだってアンタだってわかってるだろ!!」
仇を見るような鋭い貌で睨み付け、胸倉をつかむガイの腕をジェイドは振り払った。
「…でしたら本当にここで死にますかガイ。今が放とうとした譜術は20年前村を一瞬で消し飛ばしたものと同じですよ。」
「な…!」
『クク…無駄な足掻きだ…』
ガイが言葉を失っている横で思念はくつくつと笑った。
そして再び黒いコードのようなものを光が伝い横たわるの体に流れ込んだ。
すると譜業の残骸の中からガラリと音を立て○がゆらりと立ち上がる。
しかしその体には力が入っておらず上から吊るされているかのように不安定な状態だった。
「いけません!その体で動いては本当に死んでしまいますわ!!」
ナタリアが嗚咽を交えたような声を張るが、の体は宙に吊るされる。
「・・・・・せ。」
「え?」
そこでが小さな声でなにか呟いた。
「…を…せ」
『な、なんだこの反応は!まさか再び意思と感情が…!!』
思念の声が焦燥の色を見せた。
「…私を壊せ…!!」
「…!?なにいってんだ!!」
色を取り戻した彼女の目がルークたちを真っ直ぐ見つめ、口の端から一筋の血を流しながら声を上げた。
正気を取り戻した突然の言葉に驚きながらルークが目を見開いた。
「早くしろ…!また私が私でなくなる前に、私を壊せ!!」
「そんなこと出来るかよ!だっては今まで何度も俺たちのこと助けて…」
「マルクトの消滅が…、復讐が私の在る意味ならば…、再びあの惨劇を繰り返してしまうのなら…!
…私はもう、存在していたくない!!」
「馬鹿なこと言うな…!」
「…っジェイド!!」
「!」
ルークとガイが反論するがは耳を傾けずジェイドの名を呼んだ。
ジェイドは視線を少しもそらさずに見上げる。
「リングを発動させろ!爆発でもなんでもいい…!早く…!!」
「・・・・・。」
の言葉にジェイドは無言のまま自分の軍服のポケットに手を入れた。
そのまま約3cm四方の小さなリモコンのような物を取り出して中心のボタンに触れようとした。
「止めろジェイド!!」
その腕をガイがつかんで止める。
「放しなさいガイ。これは彼女自身の意思です。…むしろもっと早くこうするべきだったのかもしれません。」
「ふざけるな!…クソ、ルーク!!」
「な、なんだ!?」
腕をへし折ってしまうのではないかと思うような力でジェイドを抑えながらガイはいきなりルークの名を呼んだ。
「その思念の光を潰せ!そうすれば全部収まるかもしれない!」
「どうすりゃいいんだよ!」
「わからない…とにかくその辺にある譜業を全部ぶっ壊しちまえ!」
「わ、わかった!」
「私たちも手伝うよ!」
ルークが周囲の譜業に剣を向けると後方からアニスたちも続いた。
『やめろ!それに触れるな!!』
思念が声を荒上げ衝撃波でルークたちを阻むがソレを掻い潜りながら手近にある譜業にそれぞれの武器を向ける。
その様子を後方でジェイドとガイが未だに腕を抑えながら見ていた。
「こうしても解決しなかったら、どうするつもりですかガイ。」
「・・・・・。」
「もしまたが私たちに向かってきたら私は今度こそリングを発動させます。邪魔をするならガイでも容赦しませんよ。」
鋭いピジョンブラッドの目をガイに向けながら冷静に告げるジェイドにガイは何も言わず視線をそらした。
その間にルークたちは周囲の音機関を手当たり次第に壊していた。
バチバチと放電するような音が立ち始めると、思念の光が収まっていたガラスケースのような物が不定期に暗転する。
それを見たルークが地を蹴って思念に向かって剣を振り上げた。
「うおおおおおお!」
『やめろ!やめろおお!!』
ケースを叩き割るように剣を振り下ろすと、ビシビシッと罅が走る。
そのままルークの切っ先は思念の光を真っ二つに切り裂いた。
『おおおおおおお!』
光が断末魔のような声を上げた。
『また我々なのか…!また我らが消されるのか…!!
…いや…マルクトある限り…!我らの思いは消えぬ…復讐を終えるまで何度でも…何度でも…!!』
思念の光は無念の叫びを残す同時に、パアンという火薬が弾けるような音ともに消滅した。
それと同時にに繋がっていたコードのような物も消し飛び、は地面にドサリと横たわる。
「!…っ、うお?!」
一番近くに居たルークが駆け寄ろうとしたのと同時に洞窟全体が音を立てて揺れ始めた。
パラパラと天井から人工物のかけらや土くれが落ちてくる。
「じ、地震?!」
「いえ、地震にしては揺れ方が…。むしろこれはアクゼリュスの時と同じ…?!」
アニスがひざと両手を地面につきながら言うとジェイドが辺りを伺いながら応えた。
「…崩落する…」
力のない両腕を立て上半身だけを少しだけ起こしたの声が届いた。
「!よかった元に戻っ」
「…この洞窟は思念の力で作られた…、主柱を失った洞窟は崩れ落ちる…」
「ならすぐに脱出しよう!、動けるか?…あ、でも俺とジェイドで運んだほうが早」
「…行け」
「え?」
がルークの言葉を再び遮った。
「私は動けぬ…、お前たちだけで行け。」
「何言ってるんだ!だけおいて逃げるなんて出来るかよ!」
「ルークの言う通りですわ!」
「…早く行け、逃げ遅れるぞ…。」
切れ切れの息の合間から言葉をつなぐは顔をうつむかせたままルークたちのほうを見なかった。
そんな彼女の様子に耐えかね、ガイがジェイドの腕を放して走る。
「お前も俺たちと一緒に脱出するんだ!」
「っ!…『行け』と言っているのが、判らぬのか…!!」
怒鳴るようにが言うと背の翼が再び左右に大きく開いた。
それと同時にまた強い風がルークたちに吹き荒れる。
その風圧でガイの足が止められた。
「くっ!な、なにを…!」
「松籟集いて永久の碇の戒めを解き放たん 我が名の元に いでよ風の箱舟」
はっきりと聞き取れる声で唱え始めるとルークたちの足元で円を描くように風が吹き始める。
風は徐々に強くなり以外の全員を落盤から守るように包み込み体を中に浮かせた。
「まさか…!駄目だ、止めろ!」
「エアリアルノア!!」
ガイの手があと少しで届きそうという所でルークたちは全員後方へ、洞窟の入り口の方向へ飛ぶ。
「…私はもう、お前たちとは行けぬ…。行ってはならない…。」
「ー!!」
ガイの声は崩落の音にかき消され、の姿はやがて瓦礫に埋もれ、見えなくなった。
→Episode10