「おわ?!ジェイド、!?」




―Episode.8




「あぁ、よかった入れ違いになったかと心配していました。」


万全な状態でないタルタロスで可能な限りの最高速度でダアトの北西アラミス湧水洞へ舵を取る。
一刻一秒でも惜しい中すぐさまタルタロスから湧水洞の入り口へ向かった。
偶然にもの読み通りに、ガイと彼がまっていたルーク、そしてティアの3人と無事に合流することが叶った。



「大佐、二人ともどうして此処に?」
「ガイに頼み事です。ここでルークを待つと言っていたので探しに来たのですよ。」

ルークが驚いている横でティアが冷静に問う。ジェイドがそう告げるとガイが視線を向けた。

「俺に?」

そのガイの問にはが答えた。

「イオン殿とナタリアがモースに軟禁された。今はアニスが教団の様子を窺がっている。」
「なんだって?!」
「おやルーク、あなたもいらっしゃいましたか。」

の言葉にルークが目を見開くとジェイドが如何にも今いたことに気付いたかのように言う。
ジェイドの厭味を大いに含んだ物言いに、ルークは俯くだけだった。


「…居たら悪いのかよ…。」
「いえ別に。それよりモースに囚われた二人を助け出さないとまずいことになります。
 近くにマルクト軍がいないのでここはガイに助力をと。」

眼鏡を押し上げ、一呼吸おいてジェイドが言うとルークが落とした視線を再びジェイドに向けた。

「まずいことって何が起きるんだ?」
「アクゼリュスが消滅したことをきっかけにキムラスは開戦準備を始めたと聞いています。
 恐らくナタリアの死を戦争の口実に考えているのでしょう。
 イオン様も此れを警戒して導師詔勅発令しようと教団に戻った所で捕まったそうです。」
「よし、ルーク二人を助けよう、戦争なんて起こしてたまるか。そうだろ?」

其処まで言うとガイが励ましを含めたようにルークに言葉を振る。
語尾に態と問いの形を残すことでルーク自身に決断させるという機会をやや意識的に与えていた。
ガイの言葉にハッと何かに気付いたようにルークはギュッと拳を握り顔を上げた。


「…あぁ、ダアトへ行けばいいのか?」
「ま、そういうことになりますね、念のためお知らせしておきますがダアトは此処から南東にあります。
 迷子になったりして足を引っ張らないようにお願いしますよ。」

ルークがジェイドに問うとジェイドは皮肉と棘を含んだ冷静な忠告を返す。
言葉の重みに、ルークは先にダアトへ足を向けていったジェイドとガイに遅れをとった。
その背後でティアがルークの背に声を掛ける。


「ルーク、一度失った信用は簡単には取り戻せないわ。」
「わ、わかってるよ。」


ティアは淡々とそう告げると同じようにダアトへ向かう。
その後ろにが続こうとしたところで、がルークに振り返った。


「…髪を切ったのかルーク。」
「え、あ、あぁ、うん。」


腰辺りにまで伸びていたルークの赤髪は首筋辺りでバッサリと切られていた。
それを見ながらが言うと、ルークが驚いたように顔を上げる。

なぜ、今この場でこの話題を持ち出すのか。

ルークは過去の自分と決別するために、決意の一環として己の髪を切り捨てた。
その決意にまであるいはは感づいていたのか。
ルークはどうにもわからないの言葉の先を待った。


「雰囲気も変わったな。…その方が前より似合っている。」
「!」
「行くぞ。」
「あ、あぁ。」


予想できなかった言葉にルークは先刻よりも少し力を取り戻したような声を返しての横を走り出した。


。その…ありがとう…。」
「…お前からその言葉が聞けるとは思わなかったな。」


自分の横を走るルークの言葉にが珍しく驚いた顔を見せる。


「な、なんだよ俺は本当に…」
「わかっている。冗談だ。」
「……!」


一度むくれたようなルークの表情はそこでまた驚愕に似た其れに変わった。
その変化に気付いたがルークに問いかけた。


「…?どうした?」
「いや、なんか俺…が笑った顔、初めて見た気がする…」


仮面の向こうのの表情はすぐさまいつもの、感情が表れないものに戻った。


「笑った…?私が…私は、笑っていたの…か…?」
「え?」
「なんでもない。急ごう。」


ルークには見えない角度まで顔を俯かせ走る速度を早めたの後ろにルークは慌てて着いていった。





***





「うおおおお?!」


ダアトの教会へ続く大階段にまでたどり着いたところでガイが突如奇妙な声を上げた。
そのまま慌ててルークの背後に走りこんで身を隠しながら震えだす。
ルーク達が驚きながらガイの居たほうに向き直ると其処にはアニスが居た。


「アニス!」

ルークが名を呼ぶとアニスがルークを見上げて目を見開いた。


「うっわ!アッシュ、髪切った!?」
「あ、俺は…。」

顔を見るなり呼ばれた名前に、そう言われても仕方ないと理解はしつつもやはり何処か自分の内部を衝かれたような錯覚を覚えた。
ルークが顔をしゅんと俯かせたところでアニスの声のトーンが下がった。


「あ、ちがったルークだ。…?…!?ええ?!なんでお坊ちゃまがこんな所にいるの!!?
 てか、後ろにいるのは大佐達!?わっは!これってローレライの思し召し?!」
「…けたたましいな…。」

明らかに軽蔑するような声をルークに向けたかと思えば驚愕の表情を見せ流れるように歓喜の声を上げる。
どこかに感情の切り替えスイッチでもあるのではないかと思わせるアニスの変化にガイがルークの背後でボソリとそう言った。


「アニス、とりあえずイオン様奪回の戦力は揃えました。お二人はどうされています?」
「イオン様とナタリアは教会の地下にある神託の盾本部に連れて行かれました。」

ビシッとポーズと取り要件だけを的確に伝えるとルークがティアに顔を向ける。

「勝手に入っていいものなのか?」
「教会の中だけならね、でも地下の神託の盾本部には神託の盾の人間しか入れないわ。」
「進入方法は無いのか?なんとしてでも二人を助けないと本当に戦争が始っちまう。」
「っていうかもう始りそうだけど。」

アニスの他人事の様な物言いを聞きティアは顎に手を沿えうんと唸る。
ティアのみならば何の苦労もなく入れるが、全く無関係のものをどうやって連れ込むべきか。
今まで考えもしなかった事態に思案を巡らせていた所でジェイドが思いついたように口を開いた。


「ティア、第七譜石が偽物だったという報告はまだしていませんよね?
 私達を第七譜石発見の証人として本部へ連れて行くことは出来ませんか?」
「判りました自治省の詠師トリトハイムに願い出てみます。」







「此処からどこへ行けばいいんだ?」

ジェイドの提案は想像以上にうまくいった。
ティアを先頭に教会の奥に入り自治省のトリトハイムに事情を伝えると疑われもせず同行の許可が下りた。
仮にこれがモースだったらどうなっていたか。ティアは自分の上官を欺いたことに少なからず罪悪感を覚えながらも通行許可証となる木札を受け取った。
そのまま長い階段を降り、見張りの神託の盾に木札を見せすんなりと潜入に成功する。
しかしその神託の盾本部は侵入者対策なのか全体が薄暗く似たような作りになっており何処から探すべきか判断を鈍らせる。
小声でルークがアニスに問うとアニスも同様に声を潜めた。


「わかんないよ、しらみつぶしに探さないと…。」
「んなことしてたら見つかっちまうぞ。」
「なるべく目立たないようにするしかないだろう、しかし少なくとも最低限の戦闘は避けられまい。
 まさか見張りも立てずに二人を軟禁しておくわけがないからな。」

数多くある扉に耳をそばだてながら言うルークにが気配を殺しながら告げる。
その言葉に、ルークは事情が何であれ自分はまた誰かから恨みを買うことになるという事実に顔を曇らせた。
皮肉にもそんな感傷に浸っている暇もなく一行は囮の銅鑼を鳴らしながら本部の奥のほうまで歩みを進めた。






「イオン!ナタリア!無事か?」

慎重且つ迅速に本部内を捜索していく途中、他の箇所より明らかに兵の多い通路に行き当たる。
その通路の最も奥の扉の前にはご丁寧にも武装した神託の盾が2人並んで立っている。
その場に居た兵士を当身程度で気絶させ扉を開きルークが駆け込んだ。
突如現れたルーク達にイオンより先にナタリアが声を出した。

「ルーク…ですわよね。」
「アッシュじゃなくて悪かったな。」
「誰もそんな事言ってませんわ。」

卑屈交じりのルークの言葉にナタリアが少し強い口調で返す傍らでルークの横からアニスが入り込んだ。

「イオン様!大丈夫ですか?怪我は?」
「平気です、皆さんもわざわざ来て下さってありがとうございます。」

場の展開に後れを取っていたイオンはアニスの問に穏やかに礼を述べた。
その横でティアが今回の軟禁事件に自分の兄、ヴァンが関わっていたかを問う。
イオンが言うにはヴァンの姿は見てないものの六神将が自分を連れ出す許可を取ろうとしたらしい。


「セフィロトツリーを消す為にダアト式封咒を解かせようとしているんだわ。」
「…ってことは、いつまでもここにいたら総長たちがイオン様を連れ去りに来るってこと?」
「そういうこった、さっさと逃げちまおうぜ。
 ひとまず町外れまでで大丈夫だろう。この後のことは逃げ切ってから決めればいい。」

ガイが後ろで気を失って倒れている兵に視線を送りそう告げる。
そのままルークの提案でダアトの近くにある第四石碑のある丘まで急いで脱出した。






「追ってはこないみたいだな。」
「公の場でイオン殿を拉致するような真似は出来ないのではないか?」
「でもこの後どうしますか?戦争始りそうでマジヤバだし。」


見張りの兵の目を掻い潜り、意外にも追っ手も来ずルーク達は第四石碑の丘までたどり着いた。
一呼吸置いた所でアニスがジェイドに振り返って問う。
ジェイドが思案している最中でルークが口を開いた。

「バチルへ行って伯父上を止めればいいんじゃんね?」
「忘れたの?陛下にはモースの息がかかっているはずよ。敵の懐に飛び込むのは危険だわ。」

ティアがすぐさま否定するとナタリアは口惜しげに俯きティアの言う通りだと告げた。
思っていた以上に自分の父はモースを信頼しているからだ、と。
その一方ではワイヨン鏡窟でアッシュが告げたセントビナーの崩落も心配であるとジェイドが漏らす。
全員のどうにも結論が見えない言葉を聞いたところでイオンが静かに口を開いた。

「それならマルクトのピオニー陛下にお力をお借りしてはどうでしょう。
 あの方は戦いを望んでおりませんし、ルグニカに崩落の兆しがあるなら陛下の耳に何か届いているのでは?」
「それでいいんじゃないですか。元々私達もグランコクマへ足を運ぶ予定でしたし。」

イオンの提案に眼鏡を押し上げながら言うとガイが不思議そうにジェイドに視線を向けた。

「『私達』って?」
「私とのことです。大本の予定とは大幅にずれましたけど陛下への報告も兼ねて彼女を送検しようとしていたんですよ。」
「…送検て…じゃあ」
「では、とりあえずタルタロスがあるダアト港まで行きましょうか。」

半ば強引にジェイドが何か言いかけたガイの言葉を遮った。
流れた一瞬の空気の変化にルーク達も戸惑いを見せながらダアト港へと足を向ける。
一番後ろに居たガイが港へ向かうの背中に声を掛けた。

「…いいのか?」
「なんのことだ。」

は足を止め振り返る。まっすぐ自分をみる視線にガイは一度地面に顔を落とした。

「このままグランコクマに行ったら…お前は…。」

「おーい!ガイ、何してんだよ、早く行こうぜー?」

「…行くぞ。置いていかれる。」


丘の麓にまで到達していたルークが大声で二人を呼んだ所で、はガイの問いに答えを返さず走り出す。
なんとなく誤魔化されたような思いを感じながらガイは一拍遅れて後を追った。





「皇帝のいるグランコクマって此処からだとどの辺になるんだ?」
「えっと、確か北西だよ。」

ジェイドがタルタロスの機動準備に取り掛かっている背後でアニスがルークに答える。
それを聞きながらガイが再びジェイドに問いかけた。

「ちょっと気になってたんだが確かグランコクマは戦時中に要塞になるよな。港には入れるのか?」
「良くご存知ですねぇ、そうなんです。」

徐々に速度を上げて動き始めたタルタロスの舵を切りながらジェイドは振り返った。

「でも今はまだ開戦してませんよ。」
「それはそうですが、キムラスカの攻撃を警戒して外部からの進入経路は封鎖していると思います。」

あくまでも冷静にジェイドが言うとルークもジェイドに視線を送る。

「ジェイドの名前を出せば平気なんじゃねーの?」
「今は逆効果でしょう。
 アクゼリュス消滅以来行方不明の軍人が、部下を全て死なせた挙句何者かに拿捕されたはずの陸艦で登場。
 攻撃されてもおかしくない。」
「何処かに接岸して陸から進んではどうでしょう。丸腰で行けばあるいは…」

イオンがそう提案するとティアも其れに賛同するように口を開く。

「ローテルロー橋はまだ工事中ですよね。あそこなら接岸できると思います。」
「それしかなさそうですね。」
「決まりですわね。ローテルロー橋を目指しましょう。」
「うは…歩くん……!?」


アニスが言葉を言い切る前にタルタロスがガクンと大きな音を立てて揺れた。
ガガガと何かを削り取るような音が響きそのまま小刻みな揺れが継続する。


「沈んじゃうの?!」
「見てきます。」
「俺も行く。音機関の修理なら多少手伝える。」

不気味な機械音が続く中ジェイドとガイが機関部室へと姿を消した。

「ご主人様、僕泳げないですの」
「…知ってるよ大丈夫、沈みゃしないって。…あれ?、何やってんだ?」
「いや…」

ルークの足元で大きな瞳を不安げに揺らし、ルークを見上げながらいうミュウを穏やかに宥めたところで船窓に歩み寄るに声を掛ける。
は曖昧な返答だけをすると船窓からジッと遠くを見つめた。
その視線の先には不自然なまでに発達した黒雲が立ち込めている。


「…時化か…荒れるな。」





―コロセ






「!?」


小さく呟いたの顔が瞬時に歪んだ。
誰にも気付かれないように船窓から視線を動かさず誤魔化すように自分の前髪をクシャリと握る。






―コロセ、コワセ、ホロボセ、我らは…




「……っ!」





―なん、だ?!こんなにはっきりと声が…!





『機関部をやられましたがガイが応急処置をして何とか動きそうです。』


電線管を通して聞こえてきたジェイドの声にはハッと我に返った。
船窓にぼんやりとうつる自分の表情は焦燥に染まり、気が着けば吐く息も荒かった。


『一時的なもんだ、出来れば何処かの港で修理したいな。』

続けて聞こえてきたガイの声にティアが電線管が取り付けられている天井に顔を向ける。


「ここからだと停泊可能な港で一番近いのはケテルブルク港です。」
「じゃあ其処へ行こう。いい……?…?どうかしたのか?」

の様子に気付いたルークの口はジェイドに同意を求める前に止まった。
は極力いつもの自分のように振り返る。

「いや…移動するなら早くしたほうがいい。北西方面に大きい黒雲が出ている。」
「あれ?なんか顔色悪くない?」
「…アニスの気のせいだろう。」
「え、えーと、とりあえずそのケテルブルクって所に行こう。いいだろ?ジェイド。」
「まぁ…」

ジェイドが濁すような答えを返すとそこで電線管の通信は切れた。
数分後ルーク達のいる操舵室に二人が戻ってくるとジェイドは再び舵を握った。


「ここからならそう離れていませんから1時間以内には着くで」



―ピシャ!!



「うわ!?今度はなんだ?!!」


ジェイドの声は突如轟いた雷鳴にかき消された。
機体を揺らすほどの大きな稲妻には再び船窓から外を眺める。



「!馬鹿な!先刻の黒雲がもう目の前に…!このような…」








―コロセ、コロセ、ホロボセ、コワセ、全てを、我らは誇り高き…








「……!?くっ……!?」
!どうしたんだ!?」

行き成り頭を抱えながら崩れ落ちるように膝を着いたに驚きガイが走りよる。
しかし、どうしてもあと少しで手が届くというところまでで足が止まり動けなくなる。
その間にイオンがの元に歩み寄った。

「大丈夫ですか!?、一体どうしたんです?」




―くそ!どうしていつも俺は…!




「こんな…!まさか!」
「どうしたんだジェイド。」

珍しく驚くジェイドの声とルークの声にガイはそこで自分が拳を震えるまで握っていたことに気付く。




「前方に竜巻が…くっ、避け切れません!!何かに掴まってください、直撃します!」
「マジかよ!?」


ルークが言うと同時にガタンと船全体が大きく揺れた。
慌ててそれぞれが一番近くにあるものに必死で捕まるが、浪は荒れ、風は吹き荒び、雷鳴は轟き続けた。



「うわああああ!!」


タルタロスはなすすべもなく荒波にもまれ流されていった。






***






「…っ、痛ぇ…みんな、大丈夫か…?」

打ち付けた頭を抱え、ルークがゆっくりと捕まり立つ。
恐ろしいまでに静まり返ったその場に聞こえたルークの声にジェイドたちもそれぞれ立ち上がった。


「一体どうなってしまったのでしょう…?」

流された衝撃で機能が停止し薄暗くなった船室の中でナタリアが不安げに声を漏らす。
それを聞きながらジェイドは正面の大きな船窓から外をみやった。

「…どうやらどこかの陸に打ち上げられたみたいですね…。  暗くて様子がよくわかりません、降りてみましょう。」
「なら俺はその間に機関部を見てくる。」

そういうとガイは一人再び機関室へと姿を消す。
其れを見届けたところでジェイドたちは全員非常用のハッチを開いてタルタロスを降りた。




「なに、此処。こんなところあったの?」

一足先に砂漠にも似た砂浜に降り立ったアニスが周囲を見回しながら呟いた。
それにつられてジェイドたちも視線を送る。
昼夜の判別を鈍らせるほどの薄暗さと静けさの中波音だけが不気味なまでに際立つ。
平坦な砂浜が続くその陸地には小さな丘だけが存在していた。


「あれ?…あそこって洞窟?」
「…あれは…」

アニスが指差す先には丘の下部にぽっかりとあいた穴。
奥へと続いていそうな出で立ちの其れを見てが小さく声を漏らす。
それに鋭く気付いたジェイドが振り返った。

「何か知っているのですか?」
「…いや…」





―しかし、なんだ、この既視感は…。私は知っているのか…?





「なにかあそこに落ちてるですの!」
「あ、おいコラミュウ!勝手にうろちょろするな!!」

ジェイドが探るような視線を送っている最中でミュウが突然洞窟のほうに走り出した。
その後ろにルークが慌ててついていく。


「まずいぞ。さっきの衝撃で部品が完全に壊れた。」

それと入れ違うようにガイがタルタロスから降りてくる。
そのまま陸に立つと渋い顔のままジェイドに声を掛けた。

「旦那、なにか緊急用とか予備のパーツとかってないのか?」
「…生憎と…」

黙り込んでしまったから視線を落として眼鏡を抑える。
最悪の状態を眼前に突きつけられ重くなる空気の中ルークがミュウの首根っこを掴んで戻ってきた。


「ったくこのブタザル!いきなり離れるなっつの!」
「みゅううぅ…ごめんなさいですの…でも、なにかキラキラしたものひろったですの!」
「なんだよその小っこい汚いの。いいから捨てちまえ。」
「ん?ちょっと待てルーク。ミュウ、其れを俺に見せてくれないか。」
「はいですの。」

ミュウの小さな手に握られたそれに気付くとガイが捨てさせようとするルークを止める。
ガイの言葉を聞くとミュウはルークの腕から飛び降り外の元へ走り寄った。

「…!こいつは…!おいミュウ、此れを何処で拾ったんだ?」
「あっちの洞窟の近くですの!」
「一体どうしたのガイ。」

ミュウから受け取ったそれをクルクルと回したり埃を払ったりしながら見定める。
すると突然ガイがミュウの視線にあわせて問いかけた。
訳がわからずティアがガイに尋ねる。



「こいつは凄いぞ、見たことない機関の装置の部品だ。
 それも随分性能のいい奴だ、うまくいけばタルタロスに使える。」
「あそこの洞窟から其れと同じ匂いが沢山するですの。」
「なぁ、少しあの洞窟調べてみないか?もしかしたらもっといい機関部品が出てくるかもしれない。」
「まぁ…いいんじゃないでしょうか。どちらにしろ今現在タルタロスは動かせないのですし…。」
「よし、じゃあ行ってみようぜ!」


ミュウから受け取った部品を自分のポケットに押し込みながらガイが言うとルークもジェイドも同意した。
結局、この先に何があるかわからないため、少なくとも此処よりは安全なタルタロスにイオンを残して洞窟内を探ることが決まる。






―我らの悲しみ…を…ぬ…我ら…嘆き





「!また…か…。」





―一体、なんなんだ…。あの洞窟に近づいてから心拍数がおかしい… 焦燥…?違う。なんだこの私の中に疼くこれは…




「…、…!」
「!?なん、だ、どうしたジェイド。」

また一人額を抑え俯いたまま何事か考え動かなくなってしまったにジェイドが声を掛ける。
それに気付いたがハッと顔をあげ視線を合わせて問い返すとジェイドは溜息で答えた。

「それはこちらの台詞です何度呼んだと思ってるんですか?もう皆行ってしまいましたよ。」
「そうか…すまん、すぐ行く。」


ジェイドに言われ洞窟のほうに視線をやると丁度ナタリアの姿が見えなくなるところだった。
は気付かれないように一度小さく息を吐いてその後に続く。


「・・・・・・・。」

ジェイドは徐々に小さくなっていく彼女の背中を黙って見つめていた。






「なんだか不気味なところですわね。」
「ねぇ、さっきから気になってたんだけどこの転がってるの何?
 似たようなのがあちこちに落ちてるけど…なんか人の形に見えるよ。」
「こ、怖い事いわないでよアニス。」

光が差し込んでいないはずなのになぜか周りの様子が薄ぼんやりと見える。
不思議と魔物の気配もなくルーク達は壁伝いに洞窟の奥へ進んでいった。
アニスが所々に落ちている物体を遠目で眺めながら呟くとティアの肩がビクリと揺れる。

「不思議な感じですね、魔物どころか生き物の気配がない。」
「…あぁ。」

列の後方でどんどん広くなって行く洞窟内を眺めながら言うジェイドには気のない返事を返す。
そのまま先ほどアニスが言っていた謎の物体に視線を落とした。





―ようやく…した、此れより我ら…始る…




「・・・・・止めろ…。」
。」

小さく呟いた声を聞き漏らさなかったジェイドが足を止めての名を呼んだ。
は振り返りはしなかったがその場で立ち止まった。

「どうかしたんですか、さっきから様子がおかしいようですが。」
「別に…、お前には関係ない…。」
「…まさかとは思いますが、今頃脱走しようなどという計画を立ててませんよねぇ?」
「・・・・・・・。」

ふざけ半分の笑みを零したジェイドには答えずに先へ進んだ。







「おい、すごいぞ!」

基本一本道だったその場所を進むと広場のような場所に行き当たった。
ルークとガイが同時にその場に踏み込むとガイがすぐさま声を上げた。
その声にティア達も走って二人の元により辺りを見回す。


「なにこれ、なんか凄そうな機械ばっかり!」
「なんとなくワイヨン鏡窟でみた装置にも似てますわね…。」
「ベルケンドの音機関研究所みたいだな。」


ここは本当に洞窟の中なのか。
そう疑問を持たせるその場所はガイが呟いたように何処かの研究所のように整備されていた。
壁や天井にはいくつ物コードが張り巡らされ、小さなモニターの様なものも多数設置されている。
ガイは一人目を輝かせながらその装置一つ一つを見て回っていた。




「すごいな…こんな時でなきゃ泊まりこんででも此処で調べたいよ。」
「でたよ、ガイの音機関マニア…。」


そのガイの様子を呆れながら見つめていたルークが呟くのと同時にジェイドともその場に足を踏み入れた。



「………!」
「すごいですね…、こんな所どうして今まで…」

はその場で動かなくなった。
ジェイドは其れに気づかず足を踏み入れていく。






―思い、だした…





「どうやら演算機はまだ動くようですね。」


が壁に寄りかかり耳を押さえるように手を添えていたことに誰も気付かなかった。
その間にジェイドがその場所の中心に置かれていた装置に目をつけた。
何事かパネルに打ち込むと、ピピピという電子音が鳴り響いてモニターが現れる。



「これは…!」
「どうしたんだジェイド。」

ルークがジェイドの横に着きモニターを眺める。
左から右へ自動で文字が高速で映し出されていく様子をジェイドは逃さず追っていた。


「なにかの研究記録みたいです…それにこれは古代イスパニア語…一体いつこの場所が出来たというのでしょうか…。」
「なんて書いてあるんだ…?」
「ちょっと待ってください。…『プロジェクト名・復讐者(アベンジャー)』 『製作装置・破壊兵器(ワステフラー)』…!?」
「どういうことだ?」

いつの間にかジェイドの周囲にガイとティアも寄っていた。
次々と打ちだされる文字の羅列を追いながら言葉にするジェイドにガイが問いかける。


「よくは判りませんがなにか兵器を作っていたようですね。それも随分と強大な…。
 …あぁ、どうやら此処から先がその装置の製作記録のようです。
 『ND1709・プロジェクトナンバー001・アベンジャーネーム『カオス』  外形形状記憶維持機関に異常・廃棄』」
「ND1709?!そんな昔からこんな高度な譜業技術があったってのか?!」

「『ND1710・プロジェクトナンバー002・アベンジャーネーム『ラン』体内音素抑制機構に難あり・廃棄』
 …この後ずっと同じような記録が続いてますね…。しかしどれも何かしら不都合があって廃棄処分されているようです。
 …どうやらこれが一番最新の記録のようですね。」


次々にスクロールされていた画面の動きが其処で止まった。
ジェイドは文字を流れるように読み上げる。




「『ND1997・プロジェクトナンバー201・アベンジャーネーム………!?」
「?大佐、どうしたんですか?」

突然目を見開いたまま読むのをやめてしまったジェイドにティアが後ろから声を掛ける。





「…アベンジャーネーム…『』。」
「え!?」
「『外形形状記憶維持機関・体内音素抑制機構・身体機能機関システムオールグリーン
 以後ナンバー201を我らの兵器として復讐を行う。第一目標地『ノーリア』…」
「どういうことだ…!?それに確かノーリアって…。」

青光りを放つモニターから視線を逸らさずにいたガイが口を開く。
ジェイドは落ち着かせるように眼鏡を押し上げた。

「…彼女が20年前消滅させた村です…。…偶然にしては…」
「じゃあ、もしかしてって…!」

「ちょっと!!、居なくなっちゃってるよ!!」


ルークが信じられないといわんばかりの顔を見せると同時にアニスが後方から声を上げた。
驚いてジェイドたちが振り返り周囲を見回すがその場の何処にもの姿はなかった。






―まさか、本当に…?




ジェイドは未だ光を放つモニターを見続けていた。





→Episode 9




相変わらず一話一話長すぎですよねすみません。

ようやくヒロインの話になります。

髪切ったルークの雰囲気の変化が出し切れてない気がするなぁ。


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理