「ティア、譜歌を。」






―Episode.3





ブリッジに繋がる道の或る上階から進入を図ろうとタルタロスの甲板を抜けたジェイド。
見張りから見えない位置でティアに指示を出した。



―トゥエ レィ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ




ティアの心地よい譜歌が艦全体を包んだ。
その歌を聴いた兵士達は悉く倒れる。それを見計らった4人は扉の前に走り寄った。



「タルタロスを取り返しましょうティア…それから…。」
「俺はどうすればいいんだ?」
「そこで見張りをしていて。」
「…へっ邪魔だってか。」

一人名指しで呼ばれなかったルークが問うとティアは冷静に答える。
直球とも取れるティアの物言いにルークはへそを曲げるかのように言い放って艦の外へミュウと出て行った。




「すごいなティアの譜歌は…。」

機関部に潜入した後が言った。
敵兵である神託の盾騎士団の中で眼を覚ましているものはいない。
3人はそのままブリッジを目指していた。…が、突然が立ち止まりルークが見張っているであろう入り口付近を見やった。



「どうかしましたか?」
「…外が騒がしくないか?」





『…るな!来るなぁああああ!!!』

「!?」



ルークの悲鳴のような声に3人は踵を返した。




「な、何が起きたの?」
「…まずい、今の騒ぎで譜歌の効果が切れ始めました。」


甲板に出てきた3人の視線の先には腰を抜かして震えるルークと、血を流して息絶えている兵士の姿があった。



「さ、刺した…俺が…殺した…?」

ルークは返り血を浴びて震えがとまらない自分の両手を見て息荒く言葉を発す。




「人を殺すことが怖いなら剣なんて捨てちまいなこの出来損ないが!!」


4人の頭上から男の声が響くと同時に氷の刃が降り注いだ。
突然のことにルークとティアはまともに反応できずに直撃を受け倒れた。
ジェイドとだけがその先制を交わし、術を放ったものを見上げる。

スタ、と二人の前に紅く長い髪をした男が降り立った。



「流石は死霊使い殿、しぶとくていらっしゃる。そこの仮面の野郎もいい動きをするじゃねぇか。」


人を見下すような笑みを浮かべながら赤髪の男は言った。
男の背後では一人の兵士が倒れたルーク達に剣を向けている。



「隊長、こいつらはいかがしますか?」
「殺せ。」
「アッシュ!閣下のご命令を忘れたか?それとも我を通すつもりか?」

躊躇いもなく言い放ったアッシュに、その場に居た金髪の女が制する。


「ちっ、捉えて何処かの船室にでも閉じ込めておけ!」


アッシュの声に、ジェイドももなんら抵抗せずに従った。






「ルーク…起きてルーク。」


タルタロスの一室に閉じ込められた4人。
うなされるルークをティアが呼び起こした。
朧気な記憶の中、ルークは自分が人を殺したという逃れられない事実を思い出し生気のない眼を開く。

「さて、そろそろ此処を脱出してイオン様を助け出さなければ。」
「イオン殿は何処かに連れて行かれたようだったが…」
「神託の盾兵の話を漏れ聞くとタルタロスへ戻ってくるようですね。
 そこを待ち伏せて救出しましょう。」
「お、おいそんなことしたらまた戦いになるぞ。」


ジェイドとの会話にルークが口を挟む。
しかしティアはそれに対し『仕方が無い事、戦えないなら下がっていなさい』と制す。
それにルークは「戦えないなって言っていない、人を殺したくないだけ。」と返した。
埒の明かない問答にジェイドが「戦力に数える」として無理やり場を収めた。



。」
「…なんだ。」

ジェイドが視点を切り替えを呼んだ。


「此処の中からあの壁のスイッチに向かって先程の水の譜術を放ってくれますか?
 封印術のせいで私はろくな譜術が使えないので。」
「あそこを狙えばいいんだな?」
「えぇ、あの装置を壊せばこの檻が開きますから。」
「承知した。…受けよ激流 『アクアスパイク』。」


両手を翳して短い詠唱を終える。すると先刻ラルゴに放ったように水圧の高い水流が装置を破壊する。
バチバチと感電するような音の後牢屋が開き4人はそこから脱出した。
そのままジェイドは電線管に近づく。



「死霊使いの名によって命じる。作戦名『骸狩り』始動せよ。」


ジェイドがそう言い放つ急にタルタロスの動力が落ちた。




「あらかじめ登録してあるタルタロスの非常停止機構です。復旧には暫くかかるはず。
 左舷昇降口(ハッチ)へ向かいましょう。今はあそこしか開かなくなる。」

途中で取り上げられたルーク達の武器を見つけそのまま目的の場所へと向かった







「どうやら間に合いましたね、現れたようです。」
「タルタロスが非常停止したこと気付いてるか?」


左舷昇降口円窓から外の様子を伺いジェイドが告げる。
その後ろからルークも覗き込むように問う。



「流石に気付いているでしょう。
 それよりこのタイミングでは詠唱が間に合いません。譜術は使えないものと考えてください」



ジェイドがそう告げるのとほぼ同時に外から『非常昇降口を開け』という女の声とそれに答える兵士の声が届く。






「おらぁ火ぃだせ!!」
「魔人剣・双牙!」


ルークがミュウを掴み上げ兵士がハッチを開けた瞬間その顔面に向かって火を吐かせる。
加えてがレイピアによる2段に渡った衝撃波を見舞った為兵士は階下へ吹き飛ばされた。

階下に居た金髪の女が両手に銃を構えるが其れより先にジェイドがタルタロスから飛び降り女の背後に回る。
女も瞬時に後ろへ銃を向けるがジェイドの槍が喉元に当てられる速度には間に合わなかった。




「さすがジェイド・カーティス、譜術を封じても侮れないな。」
「お褒め頂いて光栄ですね、さ、武器を捨てなさい。」



ジェイドが静かに言うと女は素直に応じ、銃を足元へ捨てた。
その間にルークはミュウを、はレイピアをそれぞれ別の兵士に突きつけ動きを封じていた。



「ティア、譜歌を。」
「ティア…ティア・グランツか?!」
ジェイドの言葉に金髪の女はタルタロスの昇降口にいたティアを見る。



「…リグレット教官?!」


ティアがリグレットと呼んだ女を見ると動きが止まった。
リグレットはそこに生じた隙を逃さずジェイドの腕を蹴り上げ足元の銃を拾い発砲する。
其れとほぼ同時にタルタロス艦内からライガがあらわれティア達に雷撃を放った。
それを交わしたティア達を敵兵が一瞬の内に取り囲んだ。




「ご主人様…囲まれたですの。」

ルークの手に掴まれていたミュウが泣きそうな声で言った。




「アリエッタ、タルタロスはどうなった。」

リグレットの背後から現れた、ピンクのウェーブがかった長い髪の、背丈の小さな少女にリグレットは問う。
少女は両手に持っていた人形をぎゅっと抱きしめ不安げな声で答える。




「制御不能のまま…この子が隔壁切り裂いてくれてここまでこれた。」
「よくやったわ、彼らを拘束して。」



リグレットがそう言い放った瞬間。
何者かがタルタロス上空から飛び降りてきた。
金色の影を放つそれはアリエッタの背後に拘束されていたイオンを抱えそのまま瞬時にルーク達のほうへ駆ける。
リグレットが金髪の男に銃を放つがそれは男が持っていた剣で弾かれキンと鋭い金属音のみが響いた。




「ガイ様華麗に参上。」



不敵な笑みを浮かべて男は剣を鞘に納めた。



「きゃ!」
「…くっ。」


アリエッタの小さな悲鳴とリグレットのうめきが同時に聞こえた。

ジェイドがアリエッタの背後で腕を拘束し槍を突きつけ、が同じくリグレットの背後で、左手の手首を返してレイピアを喉元に当てている。





「…貴様、何者だ。」
「答える義理などない。」
「…!女?」



「さぁ、もう一度武器を捨ててタルタロスの中へ戻ってもらいましょうか。」


リグレットはまだを気にかけていたが、ジェイドの言葉に大人しく従いタルタロスへ戻った。
それを見届けるとはヒュンとレイピアを半回転させ、左腰の鞘に収める。
その後アリエッタもイオンの言葉に促され他の兵士ともに中へ入っていった。




「ふぅ、助かった、ガイ!良く来てくれたな。」
「やー探したぜ、こんなとこにいやがるとはな。」


タルタロスの昇降口がしまり、ここから暫くはどの出口もロックされるということを聞き、一呼吸おきながらルークが楽しそうに言った。
ガイもそれに答えて笑みを浮かべる。



「セントビナーへ向かいましょう。」
「そちらさんの部下は?まだこの陸艦に残ってるんだろ?」
「生き残りがいるとは思えません。証人を残してはローレライ教団とマルクトの間で紛争になりますから。」



冷静に言うジェイドの言葉に場の空気が重くなる、中でもルークには特に堪えたのか顔を上げない。



「…行きましょう、私達が捕まったらもっと沢山の人たちが戦争でなくなるんだから。」

とりなすようにティアが言うと一行はゆっくりとタルタロスから離れていった。






***





「イオン様、タルタロスでダアト式譜術を使いましたね?」

丁度タルタロスとセントビナーの中間辺りに差し掛かった頃、突然イオンが息を荒くしながらその場に倒れた。
イオンの元に駆け寄ったティアを見届けながらジェイドがそう問う。



「すみません、僕の体はダアト式譜術を使えるようにはできていなくて…
 ずいぶん時間もたっているし回復したと思ってたんですけど。」
「…少し休憩しましょう、このままではイオン様の寿命を縮め兼ねません。」


ジェイドの一言に異論を唱えるものは居らずその場に居た全員が木蔭により腰を下ろした。





「…戦争を回避する為の使者って訳か、でもなんだってモースは戦争を起こしたがってんだ?」

休憩のついでに、いままでの経緯を知らないガイに簡単な説明をした。
しかしいつも話の核をつこうとすると『機密事項だ』として頑なに話すことを拒む。
今も例外ではなく、イオンに「ローレライ教団の秘密事項に属します」として回答を得られることはなかった。



「理由はどうあれ戦争は回避すべきです。モースに邪魔はさせません。」
「ルークも偉くややこしいことに巻き込まれたな。」
「ところで…あなたは?」

話の区切りを見計らってイオンが穏やかに問う、其れを聞いたガイはその場で立ち上がった。



「そういや自己紹介がまだだったな、俺はガイ。ファブレ公爵のところでお世話になっている使用人だ。」

ガイが言い終わるとイオン、ジェイドが簡単に自己紹介をして握手をする。
そしてティアも名前をつげ握手をしようと彼に近づいた。



「ひっ!」

しかし握手を求めたティアの手は空回る。ガイが小さく悲鳴をあげ後ずさっていた。



「…なに?」


訳がわからずティアはまた一歩ガイに寄る、がガイはまた一歩下がる。
しまいにはガイの後ろにあった石にかかとを取られ尻餅を付く始末。




「…大丈夫か?」


見かねたがガイの側により手を差し伸べた。
ガイはその手をとって体を起こす。



「あ、あぁ悪いな、…アンタは?」
「私はだ。」
「一体何なの?」


そこで、まるで自分がガイをいじめたようになってしまったティアがルークに問う。



「ガイは女嫌いなんだ。」
「というよりは女性恐怖症のようですね。」




『・・・・・・・。』





「・・・・・なんだ?なんで皆して俺のこと見てんだ?」


「…ガイ?お前、は平気なのか?」


未だにの手を掴んでいたガイにルークが不思議そうに問う。
ガイもガイで訳がわかないといった様子で「へ?」とすっとぼけた声を上げた。




「何言ってんだルーク。俺は男性恐怖症じゃねぇよ。」
は女性ですよ?」
「へ?」

ジェイドがルークをフォローするように言うとガイは自分より10cm以上低いの顔を真正面から見る。
はなんだか意味もなく居た堪れなくなり手を離して口を開いた。


「…すまん。」
「え?」
〜、あなたもあなたです。自己紹介するとき位はその仮面を取ったらどうです?」
「・・・・・・。」

完全にこの状況を楽しんでいたジェイドの言葉に、はガイから一歩離れて無言のまま仮面に手をかけ外す。
一度髪を振って手櫛で直しながらガイを見た。



「…うそ。うそおおお?!って、うわぁあ!!」

ガイは驚きと恐怖と、知らずとはいえ手を握ったショックで思い切り後ずさった。
そしてなんの因果か先程と同じ石に躓き転ぶ。




「す、すまん。お前がそのような症状に狩られているとは知らず…差し出がましいことをした。」
「い、いや俺のほうこそ、わ、悪い二人がどうってわけじゃなくて…そのっ。」
「わかった、私とは不用意に貴方に近づかないようする。それでいいわね?」

体全体を震えあがらせながら裏返った声で弁解しようとするガイを見かねてティアが溜息をつきながら問う。
ガイは申し訳なさそうに「すまない」というとその場で土を払いながら立ち上がった。
そこで土を払うガイの手が一度止まった。そして何か思い出したようにばっと顔を上げてを見る。




「…ん?ちょっと待て、ってまさか『大罪人・プルーマ・ラペルソナ』か?!」
「!?…何故ファブレ公爵家使用人である…キムラスカ人であるお前が私のその名を知っている?
 キムラスカ側には私の手配書など回っていないはずだ。」
「あ、…いや俺は卓上旅行が趣味でさ。」
「・・・・・・そう、か。」




―この男…あまり関わらぬほうが良さそうだな…。




「さて、皆さん自己紹介は済みましたね?あぁ、それから。」
「…なんだ。」

面白い劇でも見ていたかのような軽い物言いにその場に居た全員が振り返る。


「丁度いいですからそのままこちらに来て後ろを向いてください。」


含みのある笑みを浮かべながら手招く。は怪訝な表情のまま動かなかった。




「そんなに警戒しないで下さい、なにもいきなり頚椎突き刺して始末しようって訳じゃありませんから。」
「笑いながら言うことかよ。」


ルークの小さな言葉を横で聞きつつ、は一瞬間を置いて言われた通りにジェイドの前で後ろを向いた。
ジェイドはそれを確認すると軍服のポケットから金属製のリングのような物を取り出す。
そしての肩にまで届く黒髪を優しく掴んで横に流し、むき出しになった首筋に近づけた。


カシャン、と音がするとリングは彼女の首をチョーカーの要にぴったりと嵌った。



「…それは譜業か?」


やや遠巻きに見ていたガイが興味深げに、しかしけっして近くで見ようとはせずに聞いた。



「えぇ、これは『コンストライントリング』といいましてね。まぁ拘束具の一種みたいなものです。
 但し普通の手錠や首輪と違って、鍵ではなく所有者の、つまり私の指紋にのみ反応して外れます。
 もしこれをつけられた者が無理矢理外そうとしたり一定距離以上所有者から離れたりすると…」

「すると?」


わざとらしい間の開け方にルークが先を促す




「一気に首が絞まります。そりゃもうキュッと。」
「…ゲッ。」
「もしくは私が遠隔操作で爆発させることも出来ますよ〜。、貴方はどちらがいいですかぁ?」
「だから笑って言うことかよ!!」
「あはははー。まぁとにかく、貴方は我々の捕虜です。
 ルーク達をバチカルに送り事が全て済み次第私とグランコクマに来てもらいます。
 それを誓ってくれるのであれば手錠はかけません、あなたの戦闘力が使えることは事実なので。」
「…わかった。どちらにせよ私に拒否権などなかろう?」
「物分りの良い方で助かります。」

語尾に音符やハートマークでも飛ばしているかのように笑いながらジェイドが言う。
は黙ったまま仮面を被りなおした。



「ところでガイ、あなたは一人でルークを探しに来たのですか?」
「いや、俺とあとグランツ閣下もな、俺は陸伝いにケセドニアから、グランツ閣下は海を渡ってカイツールから捜索してたんだ。」
「…兄さん。」
「兄さん?兄さんって…。」
「やれやれ、ゆっくり話している暇はなくなったようですよ。」

ガイが最後まで問い終える前にジェイドが口を挟んだ。
振り返れば神託の盾の兵士が3人、タルタロスが停止した側から剣を携えて取り囲む。




「に、人間…」
「ルーク!下がって、あなたじゃ人は斬れないでしょう!」
「逃がすか!!」





「ルーク!止めを。」

勝負は簡単に付いた。ジェイドとティアがイオンを庇っている間にガイとがそれぞれ一人ずつ仕留めた。
残りの一人も既にの突きを食らっており息は絶え絶えのままルークの目の前で地面に伏せた。
ルークは剣は構えているものの人を斬る恐怖に押され其れを持つ手が震えたまま固まっていた。



「…っ!」

ルークは意を決して剣を振り下ろす。
しかしその眼は目標を捕らえるどころか瞑っており太刀筋は型をなしていなかった。
そんな甘い一閃を傷を負っているとはいえ、場数の多い兵士が弾き返せないわけがなかった。
キィンとルークの手から剣が飛ばされる。



「ぼーっとすんなルーク!!」

ガイが刀を構えて走り出した。
それと同時にティアがルークの前に飛び出す。




「ティ、ティア…俺。」

ルークの目の前にはガイが止めを刺して倒れる兵士、そしてルークを庇い腕を負傷して倒れるティアの姿があった。

「・・・・ばか・・・。」


ティアは倒れたままそう呟いた。





***





その夜、イオンの体調となによりティアの負傷の為にその場で野宿をすることになった。
ティアの傷自体は彼女の治癒術で完治してはいるがこのまま強行するのも危険だというジェイドの判断だった。



5人の中心ではパチパチと焚き火が音を立て燃えて居る。



翌日からのことも考慮しティア達は見張りであるジェイド以外が横になっていた。



「ティア。」
「なに、。」

ティアの横にいたが静かに話しかけた。



「すまん…お前の負傷は私にも一因がある。あの兵士に私が止めを刺していれば…。」
「そんなこと、気にしないで。もう大丈夫だし。」
「優しいのだな。」
「べ、別に…。ねぇ、私も1つ聞いていいかしら。」

ティアは薄暗い中で僅かに頬を染める。
照れ隠しかそうでないかは不明だったが今度はティアが聞き返した。


「答えられる事なら。」
「なぜは私たちの事を助けてくれたの?」
「・・・・・。」
「ごめんなさい、答え難いのならいいの。」
「いや…そうではない。…正直私もわからぬ。
 でも…チーグルの森のこともタルタロスでのことも…何故か考えるより先に動いていたような気がする。」
「そう…。でもそれってあなたも優しいってことね。あなたがいてくれてよかったわ。」
「…そんなこと言われたのは初めてだ。…すまない、ティアの体調のことも考慮せずに話しすぎた。
 そろそろ休んだほうがいい、いくら治癒術をかけたとはいえ明日に響く。」
「…そうするわ、おやすみなさい。」





―『大罪人・プルーマ・ラペルソナ』…でもどうして



ティアは色々疑問に感じつつも今までの旅路で知らずに溜まっていた疲労感が思考を妨げる。
無理に考え込もうとはせずに浅い眠りの誘いに逆らうことなく眼を閉じた。











―コロセ…ホロボセ…


声が聞こえる



モノクロのビジョン、かすれて写る雨と黒煙



『我らの声を聞け』

誰かが言った。それは返り血だらけで真っ黒になったまま佇む。




「た、助けてください!どうか!命だけは!!」

返り血だらけの者に命乞いをする声が木魂した。
声の主に近づきその喉元を容易く貫く音と感触。黒い血が伝う。




『我ら…声を…我らは誇りた…』

雨のノイズが声を掻き消す。





―コ ロ セ





「…っ。」


が眼を覚ました。そこに写りこむ景色は夜の闇と空に輝く金色の月。



「…夢、か。…あれを見るのは久しいな…。」

はゆっくりと体を上半身だけ起こす。
ふと隣を見ればティアが静かに寝息を立てており、自分のせいで起こさずに済んだことを確認する。




?」

そこへ静かに燃える焚き火の前に座していたガイが声を掛けた。


「…ガイ。すまない起こしてしまった。」


は聞こえた声に答えようと焚き火の側によった。
当然ガイとは十分な距離をとって、それでもかろうじて相手の顔がうかがえるくらいの位置で。


「いや、俺は2時間くらい前からジェイドと見張りを変わって起きてたからな。
 それより大丈夫か、魘されていたけど怖い夢でもみたのか?」

焚き火を挟んだ真正面のの顔をガイは窺がうが相変わらず仮面はつけたままな上に薄暗い。
なによりこれ以上距離を縮めると自分がまともに彼女の顔を見れなくなるためよく見る事は叶わなかった。



「夢…は、みていた。短い夢。」


はゆらゆらと燃える火を見ながら独り言のように話し始めた。



「しかし…『怖い』…?」
「・・・・・・・?」


考え込むように視線を落とし俯く。
先を促すようなことはせずガイは静かに言葉を待った。



「…『怖い』とは…『恐怖』とは…どういうことだ…?」
「え?」
「…!すまん、なんでもない。」

自分で言ってから、一瞬ハッとしたような表情を浮かべは立ち上がった。




「…今のは忘れてくれ。」
「え、ちょ、何処行くんだ。」
「風に当たってくる。」
「辺りは真っ暗だぞ?それにお前は…」
「夜目は利く、警戒するのも疑うのもお前の勝手だが逃げるわけではない。…なんにせよ遠くへはいかぬ。」

そういってマントを翻しながらはガイに背を向け歩き出した。
元々そんなに近距離でもなかった上に辺りは暗い、ガイの視界から彼女が消えるのに時間はかからなかった。






『警戒するのも疑うのもお前の勝手だが…』




「…本気でそうだったわけじゃないんだけどなぁ。」



ガイは星が惜しげなく光る空を見上げながら静かにそう言った。






→Episode4






この話でヒロインは『捕虜』の称号を得ました(どうでもいい。)

しかしゲーム進めながら台詞メモるのって大変だ。
なんか聞き取りタイピングみたいになってるよ。



ちなみにこの話に出てきた「コンストライントリング」は雲雀オリジナルのアイテム
コンストライント=constraint=制限(拘束・圧迫)すること


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理