「…第七音素の超振動はキムラスカランバルディア王国王都方面から発生。」






―Episode.2




チーグルの森で捕縛されたルーク達はを除いてタルタロスの一室に閉じ込められていた。
そこでジェイドは何故初めから二人に目をつけていたかを簡潔に説明した上で原因を解明すべくルークを問い詰める。




「何故マルクト帝国へ?…それに誘拐などと穏やかではありませんね。」
「誘拐のことはともかく、今回の件は私の第七音素とルークの第七音素が超振動を引き起こしただけです
 ファブレ公爵家によるマルクトへの敵対行動ではありません」



ルークのフルネームを聞き出したジェイドは更に問を重ねる。
身に覚えもなければ聞き覚えもない『誘拐』という言葉にも疑問を付け加えた。
問われたルークは明後日の方向を見て答えず、それを見かねたティアが代わりに口を開く。



「大佐、ティアの言う通りでしょう。彼に敵意は感じません。」
「…まぁそのようですね、温室育ちのようですから世界情勢には疎いようですし。」



ジェイドの傍らに立っていたイオンがフォローするように横槍を入れる。
その言葉にジェイドは一度眼鏡を直し、自分と机を挟んでティアと並んで椅子に座っているルークを見て言った。
ジェイドの物言いがルークには面白いものではなくルークは「馬鹿にしやがって」と聞こえよがしに零した。



「ここはむしろ協力をお願いしませんか?」
「…我々はマルクト帝国皇帝ピオニー9世陛下の勅命によってキムラスカ王国へ向かっています 」
「まさか…宣戦布告?!」

イオンの言葉を転機に今度はジェイドが自分達の経緯を述べる。
それに対しティアが両国の冷戦状態を踏まえた上で驚嘆の声をあげジェイドを見上げた。



「宣戦布告って戦争が始まるのか?」
「逆ですようルーク様、戦争を止める為に私達が動いてるんです。」
「アニス、不用意に喋ってはいけませんね。」


ティアの声に触発されたように同様にジェイドを見上げる。
それにはアニスが応えるが、必要以上の軍事内容を明け透けに言う彼女をジェイドが諌める。
アニスは「えへへ」とでも言わんばかりの態度で謝罪した。



「戦争を止める?ていうかそんなにやばかったのかキムラスカとマルクトの関係って。」
「知らないのは貴方だけだと思うわ。」
「お前も厭味だな。」



「…これから貴方方を解放します、軍事機密に関わる場所以外は全て立ち入りを許可しましょう。
 まず私達を知ってください、その上で信じられると思えたら力を貸して欲しいのです。
 …戦争を起こさせない為に。」



ジェイドに言わせれば『痴話喧嘩』をしていた二人の会話の切れ目を見計らって、ジェイドは真剣な表情のまま淡々と告げる。




「協力して欲しいなら詳しい話をしてくれれば良いだろ。」
「説明して尚ご協力していただけない場合、貴方方を軟禁しなくてはなりません
 ことは国家機密です、ですからその前に決心を促しているのですよ、どうかよろしくお願いします。」
「詳しい話は貴方の協力を取り付けてからになるでしょう、待っています。」

ルークの批判に脅しとも取れる言葉で釘を刺す。
それにイオンが言葉を重ねるとジェイドは部屋を出ようとドアノブに手を掛けた。




「ちょっと待てジェイド。」

それをルークが呼び止める。



「なんでしょう?」
「アイツはどうした。」
「さて?『アイツ』とは?」
「とぼけんな。の事だよ。」
「おや〜何故あなたが大罪人のことを気にかけるのです?彼女とは無関係でしょう?」


ルークの口から飛び出した固有名詞に、ジェイドは意外そうな口ぶりで振り返る。




「私達はチーグルの森で彼…いえ彼女に何度も助けてもらいました。出逢った事こそ偶然ですが…気になるんです。」
「僕もそうです。それに森に生きる者達を気にかける優しい方です…とても大罪人には…。」


ジェイドの問にティアが代わりに答え、イオンが俯きながら言葉を加えた。



「…ま、どういう経緯があったかは知りませんが彼女がマルクトで指名手配されている大罪人なのは事実です。
 タルタロスの牢屋…といっても簡素なものですが、とりあえずそこに入ってもらってます。
 私は仕事があるので失礼しますよ。」


ジェイドは背中からの3人の視線を受け止めながら部屋を出て行った。






***





きぃ、と鉄製の扉が開いた。





「意外に大人しいですね、もっと抵抗するかと思ってましたよ。・プルーマ・ラペルソナ。」
「・・・・・・。」


ジェイドはタルタロスの一室に突貫的につくられた牢屋の中で佇むを見ながら言った。
鉄格子ではなく、電流が走っていると見られる音素の格子を挟んではジェイドに振り返らず顔を横に向け黙っていた。
壁に寄りかかって座り右足を伸ばし左足を曲げそこへ左腕を持たれかけるはレイピアは当然の事、仮面も獲られていた。




「いや〜貴方には苦労させられました。十数年前マルクト領の村を消滅させ、一度漸く捕らえたかと思えばそこに居たマルクト兵を皆殺しにして脱走。
 以後数年捜索するも一切消息は不明。…まぁまさかそのような格好をしているとは思いませんでしたよ。」
「・・・・・・。」
「…やれやれ、だんまりですか。」



ワザとらしく溜息をつくとジェイドはその場にいた見張りの兵に目配せして、下がるよう命じた。
兵士は敬礼し一言「お気をつけて」とだけ残して部屋を出た。
それを確認するとジェイドは更に牢の格子に近づき、壁に設置してある機械に何かを打ち込む。
ピピ、と電子音がなると格子の一部分が人一人分通れるだけ開いた。
ジェイドはコツコツと靴を鳴らしながら近づく。
薄暗い牢の中ではようやくジェイドを見上げた。



「…尋問でもする気か。」
「まぁ平たく言っちゃうとそうです。…貴方が答えてくれるのならね。」
「答えられる事には答える。」
「…本当に意外ですね、あの『大罪人』とは別人のようです。
 まぁ何にせよ事を終えてグランコクマにつけば貴方は処刑でしょうけども。」
「・・・・・・。」


俯き座るの目の前に、腕を後ろで組んで立つジェイドの視線は本当に人を殺せるのではと錯覚するほど重く鋭い。





「まず一つ目。何故村を消滅させたのです?」
「・・・・・。」

「それから二つ目。ほぼ一瞬で村を破壊した貴方の力は?私が見たことも聞いたことない譜術を使うようですが。」
「・・・・・・。」

「…三つ目。そもそも貴方は何者です。何故十数年前に手配された写真と姿が変わらない?」
「・・・・・。」




は何も答えない。痺れを切らしたジェイドは大きく溜息をついた。
そのままコンタミネーション現象で槍を出し腰をかがめ…




―ドサ





の腕を引っつかみその場に引き倒した。


体を跨ぎ、右腕で喉元に槍を突きつけ、左手で肩を押さえこむ。
槍の刃の根本付近に持ち替え鼻先がぶつかるギリギリまで顔を寄せた。

普通の人間なら、ここまで相手が接近すれば視線を逃れるよう顔を逸らすなり倒された衝撃で苦痛の表情を浮かべるなりする。
しかしの表情は相変わらず『感情』というものが存在せず、自分を見据える紅眼から逸らすようなこともなかった。




「まったく、協力的なのか非協力的なのか…。」
「…答えられることには答えると私は言ったはずだ。」
「で、答えたくない事にはだんまり。貴方に黙秘権が存在するとでも思ってるんですか?」
「お前が回答の可能な問いを持ちかけぬからだ。ジェイド・カーティス…いやジェイド・バルフォア。」
「…!」



刹那、ピジョンブラッドの眼が揺れた。




「随分と余計な事までご存知のようですが、今質問しているのは私ですよ。。」


肩を掴む腕にギリと圧力が加わる。槍の切っ先は更に喉元につき、つ、と紅い筋が2本左右に流れる。




「…答えたくないのではない。『答え』がないから答えられないだけだ。」
「これはまた、面白い言い回しをしますね。」
「どう捉えようとお前の勝手だ、だがそれが事実だ。私の『答え』が気に入らないならそのままその槍で私を突けばいいだろう。
 喉笛を貫かれれば人など容易く朽ちる。」
「…貴方が言うと非常に現実性があっていいですねぇ。」


顔の距離を変えないままジェイドがほくそ笑んだ。




「カーティス大佐!」




突然ドンドンドンと扉を叩く音が響いた。




「どうした。」
「ファブレ公爵家子息ルーク・フォン・ファブレがお呼びです。」
「わかった、直ぐに向かう。」



扉越しに会話を終えてから、そこで漸くジェイドは腕を放し槍を消しての上からどく。
はゆっくりと起き上がり自分の喉元に手を添える。





「とりあえずここまでにしておきましょう。…是非貴方にはそのまま大人しくしていただきたいものです。」


牢屋を再び完全にロックし、去り際にジェイドが嗤いながら言った。





それから約30分後



タルタロス艦隊全体に緊急事態発生を告げる非常音がなりひびいた。
牢屋に居たと見張りの兵が顔を上げる。見張りの兵は電線管に何事かといかける。





『前方20キロ地点の上空にグリフィンの大集団です総数は不明約10分後に接触します』


機械を通した独特のかすれ気味の声がにも届く。
はもう少し確実に情報を得ようと檻の入り口付近ギリギリまで近づいた。





―何故単独で行動するグリフィンが集団で…




考えあぐねていたところへ爆音が轟き戦艦が大きく揺れた。




「うわぁ!!」

その衝撃と反動に耐え切れず見張りの兵士が牢屋の真横のほうに吹き飛ばされ、後頭部を強打して崩れ落ちた。



「…おい。」


が声を掛けようとした直後、ピピと先刻聞いた電子音が鳴り格子が開いた。

部屋の隅には彼女の仮面とレイピアがやはり衝撃で棚から落ちてきている。




「・・・・・。」







「ブリッジ!どうした?」
『グリフィンからライガが降下!船体に取り付き攻撃を加えています機関部が…うわぁ!!』

同じ頃ルーク達はジェイド達に協力することを約束し終えた後、ジェイドはブリッジへ呼びかけていた。


ブリッジとの通信はそれ以後通じることはなかった。




「…冗談じゃねぇ!俺は降りるぞ!!」
「ルーク!今外に出ては危険よ!!」


己の身の危険を感じたルークが闇雲に走り出そうとするのをティアが止める。
ルークがジェイドの横を通り過ぎる直前、ジェイドが突然背後から降ってきた大鎌を瞬時に前へ飛びのいて交わす。
仕留め損ねた大鎌はそのまま弧を描きルークを壁に打ちつけ彼の動きを封じた。




「流石だな、だが此処から先は大人しくしてもらおうか。
 マルクト帝国軍第三師団長ジェイド・カーティス…いや死霊使いジェイド!」


大鎌の主の野太い声が響く。



「死霊使いジェイド!?この人が。」

「いやあ私も有名になったものですねぇ。」


「戦のたびに死人を貪る姿世界に遍く届いているな。」


「貴方ほどではありませんよ、オラクル騎士団六神将黒獅子ラルゴ。」


ラルゴはそこで豪快に笑った。
そのまま自分達の目的はイオン奪還だと明かし、その手に持っていた小箱のような譜業をジェイドの頭上に放る。
高くない天井付近でその箱は開き、其れと同時に寒色の光がジェイドに降り注いだ。
その光を全身で浴びたジェイドは唸りながら膝をつく。


「…まさか封印術(アンチフォンスロット)!?」

ティアがその様子を見て声をあげロッドを慌てて構えるが其れより先にラルゴが大鎌を構えて突進してきた。






「伏せろティア! 受けよ激流『アクアスパイク』!」


突然ティアの後方から声が届く。
ティアは聞き覚えの或る声の指示通りにしゃがんだ。



するとジェイドの前方に譜陣が発生し真横に高い水圧押し出された水がラルゴを襲う。
一瞬ラルゴがひるんだ隙をジェイドは逃さなかった。


そのまま地面を蹴りラルゴの背後を取る。



「ミュウ、第5音素を天井に!早く!!」
「は、はいですの!」


それと同時にミュウに指示をだす。
突然呼ばれたことに聊か驚きつつもミュウはジェイドの言う通りに天井に火を吹いた。
それが天井の照明と反応しあうと閃光が走る。ラルゴは直視し眼をくらませた。



「今ですアニス!イオン様を!!」
「はい!」


ひるんだラルゴの横をアニスは走り抜けた。



「落ち合う場所はわかりますね?」
「大丈夫!」

アニスとジェイドがすれ違いざまに言葉を交わすとアニスはジェイドの後方へと姿を消した。



「行かせるか!!」

眼のくらみが収まったラルゴはアニスを追おうと駆け出す。
其れより先に前方のジェイドの槍と後方ののレイピアが捕らえた。
ラルゴはその場に崩れ落ち動かなくなった。



「さ、刺した…」

ルークは腰を抜かし、自分の目の前で起こった殺生に愕然としていた。




「イオン様はアニスに任せて我々はブリッジを奪還しましょう。」
「わかりました、行きましょうルーク。…それに…。」


言い淀んだティアの視線をジェイドも追う。
そのままジェイドも静かに口を開いた。



「なぜ貴方が此処にいるんです。・プルーマ・ラペルソナ」
「…先程の衝撃で牢が崩れた。状況を把握する為に中を進んでいたらティア達の姿が見えたのでな…。」
「牢屋には見張りの兵士が居たはずですが?」
「衝撃で壁に打ち付けられ倒れた。気を失っているだけで息はしている。」
「騒ぎに紛れて兵士を殺し脱走しようとしたのではなく?」
「信じようと信じまいと、どう思おうとお前の勝手だ。私は事実しか述べぬ。」
「…まぁ貴方がどういう理由で私達に加勢したかは今は問いません時間もありませんし、…が、こうなった以上貴方にも協力してもらいますよ。」
「…承知した。」




静かに、しかしそれでいて重々しい会話のやり取りが終わるとジェイドはタルタロス奪還の為走り出した。
ティアやも後に続く。そしてティアは彼女の横に立って声を掛けた。



…ありがとう。また貴方に助けられたわね。」
「礼を述べられるようなことはしていない。」
「それと一つ貴方に謝らなければと思って…。」
「私に…?」
「えぇ。私もルークもあなたの事男性と勘違いしてたの…ごめんなさい。」
「…そんなことか…気にするな。」




―今…、笑った?…気のせいかしら…。




一瞬仮面の合間から見えたの表情にティアは眼を見張る。
状況が状況なだけにそれ以上は追求を避け、しゃがみ込んでいたルークに声を掛け艦内を走り出した。







→Episode3






今回書きたかったこと。


ジェイドによるヒロインへの尋問・オプション押し倒し付き

あとジェイドとヒロインのなんか大人でビターな感じの雰囲気


色々カットできるとはしてるんだけどどうしてもながくなったので次もタルタロス編です。


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