「…今日は森が騒がしいな。」
―Episode.1
「ルーク、本当に奥まで行くつもりなの?早く屋敷に帰りたがっていたのはあなたでしょ?」
「うっせーな!濡れ衣着せられてむしゃくしゃしたまま帰れるかっつーの!!」
「…はぁ。」
獣道しか道と呼べるもののない鬱蒼とした森を歩く2人が居た。
ルークと呼ばれた紅い長髪の青年は終始苛立ちながら草木を踏み分けている。
その後方で3m位の距離を開けてルークと同年齢と見られる少女―ティアが溜息をついた。
そんな彼女にお構いなしで先へ先へと進むルーク。
目立つ赤髪故に見失うことはないだろうと思いつつもティアは一定以上離れないようにしていた。
「おい、ティアあれ…。」
両手で左右に腰まである背の高い草を掻き分けていたルークが突然立ち止まった。
「おい!あれイオンってやつじゃねぇか?!」
「!?」
ルークの言葉に眼を見開いたティアが彼の横に駆け寄った。
その視線の先には数頭のウルフに囲まれ、中心で息荒く膝を突いている緑色の髪をした少年、イオンがいた。
「危ない!」
飛び出すタイミングを見誤ったティアの声が森に反響した。
―『引き裂け 疾風の爪牙』
「え!?」
『ガスティネイル!』
突然どこからか譜術を唱える凛とした声が届いた。
其れと同時にイオンを取り囲んでいたウルフをカマイタチが襲い半数以上が消え去った。
その直撃を免れた数頭も悲鳴をあげ尻尾を巻き森の奥へと姿を消した。
「す、すげぇ今のお前がやったのか?」
「いえ…私は何も…!誰か来る…!!」
ザッザッと草を踏む音、それは一歩、また一歩と確実に近づく。
ティアは警戒心を強めてイオンのほうへと走り寄りロッドを構えた。
「あなたがたは昨日の…」
「導師イオン、私は神託の盾騎士団大詠士モース旗下第一情報部所属ティア・グランツ響長です。
何故あなたがお一人でこのチーグルの森にいらっしゃるのかは存じませんが今はお下がりください、危険です。」
イオンは自分の元へ駆け寄ってきたティアに問いかける。
ティアはそれに対し無駄なく流れるように応え、そのままイオンを背後に送り音が近づいて来る方を見据えた。
「…人か、珍しいな。」
足音の主が姿を現した。
「…あなたは?」
ティアは警戒心むき出しのまま問う。そのままその人物の姿を伺うように見据えた。
まず何かの獣の骨のような奇妙な仮面が目に付く。背には黒いマントが地面ギリギリのところで靡いている。
上半身から下半身まで黒を貴重とした軽装とも重装とも判別しがたい服を着ていた。
「お前達こそ何者だ。この森は魔物が多く人間は滅多に寄り付かぬ。」
ティアの食い入るような視線を何事もないように受けつつその人が答えた。
仮面を被っているためあまり深く表情は伺えなかったが視線の鋭敏さだけは見て取れる。
その様子を黙ってみていたイオンが突然ティアの前に歩み出た。
「おいイオン!危ねぇぞ!!」
ティアとイオンの後方からルークが大声で呼び止める。
「大丈夫ですルーク、この方はむやみに危害を加えるような人には見えません。」
「しかし…!」
「…『イオン』?ローレライ教団最高指揮官の導師イオン殿か?」
「はい、先程はありがとうございました。ダアト式譜術を使いすぎて動けなかったので本当に助かりました。」
ルークとティアの制しを聞かずイオンは穏やかな笑みを浮かべながら礼を述べる。
イオンの声を聞いた仮面の者の目がほんの少し柔らかくなる。
「導師イオン殿だとは知らず名乗らなかったことお許し願いたい、私は。
イオン殿がおられるということはそちらの二人もローレライ教団の者か?」
アルトよりやや低い一定の声色を変えず、と名乗った者はティアとルークへ順に視線を移す。
その様子を見たティアはロッドを下ろし、ルークは3人の下へ歩み寄った。
「私はティアです。導師イオンを助けていただきありがとうございました。」
「俺はルークだ。言っておくが俺はローレライ教団の人間じゃねぇよ。」
「そうか…ティアと言ったな。私の事は呼び捨てで構わぬ、敬語も止めていただきたい。」
「え?あ、はい…わかったわ、なら私の事もそうしてくれるかしら。」
「承知した。…ところでなぜ3人はここに…」
「それは…」
「なるほど…聖獣チーグルをさがしてこの森に…。」
「はい。」
3人はそれぞれこの森にきたいきさつを伝えた。
それを聞きはどこか探るような視線を3人に向ける。そのままくるりと背を向け口を開いた。
「私はお前達の探しているチーグルの住処を知っている。」
「マジ?!んじゃとっとと案内してくれよ!」
「…それは構わぬ、だが一つ約束して欲しい。この森に住むものたちにやたらに手を出すな。」
「はぁ?なんだよ偉そうに、大体魔物の方が襲ってくるんだから仕方ねぇだろ?!」
「それは魔物の本能だ、自分の縄張りに人間が侵入してくれば牙を向けるのは当然のことだ。
こちらが手を出さなければ魔物たちも襲ってきたりしない。…無論例外もあるが。」
「…うっぜーな、わぁったよ、わかったから早くしてくれ!」
「ルーク!それが人に物を頼む態度なの?!」
ルークの物言いにティアが声を荒上げる。それに対してもルークは面倒臭そうに舌打ちをするだけだった。
「構わぬ、行こう。」
は何事もなかったかのように歩き出した。
「はこの森に詳しいようですがこの周辺に住んでいるのですか?」
イオンの歩調に合わせて比較的ゆっくりと進む最中、イオンが問いかけた。
「…いや、私は数週間前にエンゲーブでの盗難事件の噂を聞きこの森に来た。
色々調べていくうちに…な。その騒動の要因にも見当は着いている。」
「そうなんですか?それは一体。」
「申し訳ないが確信の持てない仮定の話だ。」
「だったら言うなっつーの。」
「ルーク!いい加減にしなさい!」
「けどよ、なんかいけ好かねえんだよあの野郎。」
「…もうすぐチーグルの住処に着くぞ。」
最後列で気だるそうに歩きながら毒づいたルークの声になんら反応を見せずは立ち止まった。
4人の先には数100年以上樹齢を重ねたと見られる大木とその根本に空いた小さな洞窟があった。
「僕はミュウですのよろしくお願いしますですの!」
チーグルの住処に入ってからは色々と忙しなかった。
ソーサラーリングにより人間との会話が可能なチーグル族の長の話では
今ルーク達と供にいるミュウという子供のチーグルが北の地で火事を起こし、その結果そこに住み着いていた凶暴なライガがチーグルの森にやってきた。
ライガは定期的に餌を収めないとチーグル族を捕らえて食らう。
それを避けるため已む無くチーグルはエンゲーブの村から食料を失敬していたのだという。
そこでイオンはそのライガと交渉しに行こうと決断し、通訳としてミュウを連れ、更に森の奥へと進みだすことになった。
途中ルークがミュウの炎で、根本が腐った気を倒して橋を作り小さな河を越えた。
「ルーク!もっとミュウに優しくしたらどうなの?!かわいそうでしょ!?」
「うっせーなブタザルに何しようが勝手だろ?!」
ルークは何が気に入らなかったのかミュウの大きな耳を掴み振り回し始めた。
するとその反動でミュウが口から炎を吐きちらす。
「!まずい…今の炎で魔物が騒ぎ始めた、ルーク、伏せろ!」
イオンの隣を歩いていたが突然声を出した。
ルークは何が起きたか知らずにただ言われるがまま地に伏した。
「翔雨列空撃!」
地を蹴って身軽にルークの前に立ちはだかる、そのままレイピアを抜刀し常人では見切れないような連続突きを放つ
そのままもう一度その場で地を蹴って垂直に飛び上がり今度は体を旋回させて斬りを見舞った。
「す、すごい」
「油断するなティア!後ろだ!!」
音もなく地面に降り立ったの言葉にティアは瞬時に振り返った。
そこには先程のウルフよりも1回り以上に大きい、金色の毛並みをした若いライガがいた。
「くっ、イオン殿私の後ろに…滔滔たる流れの調べを奏でん『スプレッド』!」
レイピアを真横にむけ左手を刃先に添えながら譜術を放つ。
するとライガの足元に青く光る譜陣が発生し地面から間欠泉のように激流が吹き上げライガを消し飛ばした。
それを見届けはレイピアを鞘に収める。そのまま伏せるというよりは腰を抜かしているに近いルークへ視線をやった。
「ルーク、あれほどやたらに手を出すなと言ったはずだ。」
「うっせぇな!こいつが命令してもないのに炎吐いたんだよ!俺は関係ねぇ!!」
「ほぉ、ならばお前の後ろに居るライガやグリフィンに喰われても文句は言わぬと…?」
「へ…?」
抑揚のない言葉にルークは座り込んだまま振り返る。
そこには先程がしとめたライガとグリフィンが横たわっていた。
「…その、ありがとう。あのままだったら私も危なかったわ…」
ティアは珍しくルークの言動を咎めずに呆然と礼を述べた。
「ついたですの!!」
再び歩き出してから数分後ミュウが小さい体で飛び跳ねながら言った。
そこは地下へと繋がる大きな洞窟。
4人が基本的に一本道であったその洞窟の奥まで暫く歩いていると開けた場所にでる。
「…いたわ、ライガクイーンよ。」
「ライガクイーン?」
「ライガは強大な雌を中心とした集団で生きる魔物なのよ。」
そういうティア達4人の先には普通のライガとは比べ物にならないほど巨大なライガクイーンが静かに巣の上で佇んでいた。
猫のように身を丸めていたライガクイーンは突如現れた侵入者を睨みつける。
「ミュウ、ライガと話をしてください。」
それまでイオンの腕に抱かれていたミュウは勢い良く飛び降りライガに呼びかけた。
しかし、ライガクイーンは住処を焼き払われた上に卵を孵化させる途中であったためミュウが必死に訴えても聞く耳持たなかった。
「ボクたちを殺して生まれてくる子供の餌にすると言っているですの!」
交渉は空しく決裂したらしい、通訳したミュウの言葉が終わるとライガはゆっくりと体を起こしルーク達へ咆哮をとばす。
「…来るぞ。」
「導師イオン、ミュウと一緒にお下がりください!」
とティアが武器を構えると逸れにつられるように慌ててルークも剣を抜いた。
「おいどーなってんだよちっとも倒れないぞ!」
戦闘が始まってから数十分が経過した。
しかし、ルーク達の攻撃をまともに受けているはずのライガは倒れるどころかひるみすらしなかった。
―やはり軽く怪我を負わせるだけでは敵わぬか…
「まずいわ。此方の攻撃が殆ど効いていない!」
「冗談じゃねぇぞ!なんとかしろ!おい!お前またなんかすげぇ譜術使えよ!!」
「・・・。」
『なんとかして差し上げましょう。』
ルークの言葉に、4人の背後から聞こえた男の声が応えた。
「誰?!」
「詮索は後にしてください。私が譜術で始末します二人は私の詠唱時間を確保してください。」
「偉そうに…!」
「それからそこの仮面のあなた。」
「…!」
鋭いティアの問に冷静に返しながらも体勢はすでに詠唱への構えを取っていた。
そしてルークの言葉を流しながら、男はルビーをはめ込んだような赤い両目をへと向ける。
「先程から伺っていましたが、あなたは実力の半分も出していませんね?
もしこの状況を打破したいのであれば私と上級譜術を放ってください、でなければ劣勢は覆りません。」
「…承知した。」
は男の鋭い視線に耐え切れず地面に落としながらやや渋々といった感じで小さく応えた。
それを合図にティアとルークは再びライガへと走り出し、男とは詠唱体勢に入った。
「受けよ、無慈悲なる白銀の抱擁。アブソリュート!」
先に放ったのは男のほうだった。
ライガクイーンの周囲の大気が一気に氷結し閉じ込める。
「天翔る星々を飲み込みし深淵なる闇よ 奈落となりて仇為す者を葬り去れ ブラックホール!! 」
そこへ追い討ちといわんばかりにの譜術が発動する。
凍りついたライガの周囲に漆黒の異空間が生じ、そこから派生した闇が刃物のようにライガを幾度となくきりつける。
ライガは断末魔の悲鳴をあげ重々しい体をどしんと横たえた。
「す、すげぇ。」
ルークもティアも二人の譜術を目の当たりにしてしばし呆然としていた。
そこへ、周囲の安全を見極めたイオンがミュウを抱えたまま男に歩み寄る。
「すみませんジェイド勝手な事をして…」
「あなたらしくありませんね悪いことと知っていながらこのようなことを。」
ジェイドと呼ばれた男はしばらくイオンを言葉で諌めていた。
長きに渡りそうだったところへルークが「もういいだろう」と仲裁する。
するとジェイドは一呼吸置くかのように眼鏡のブリッジ部分を中指で押し上げて直した。
「…まぁ時間もありませんし此れぐらいにしておきましょうか。」
「親書が届いたんですね?」
「そういうことです。さぁ、とにかく森を出ましょう。」
二人の長くない会話が終わるとその場に居た全員はぞろぞろと洞窟をあとにした。
「…ジェイド・カーティス…。」
「?どうしたの?」
「なんでもない。」
一人歩みを止めたを不思議に思いティアが声を掛ける。
は何処へ向けているのか判らない視線をあげて短く応えた。
「なぁ」
「なんだ?」
「お前さっき「大佐ぁイオン様ー!!」
森の出口が近づき始めた頃、ルークがなにごとか問おうとした声が、活発な少女の声に遮られた。
「ご苦労様でしたアニス。タルタロスは?」
アニスと呼ばれた12,3歳位の小柄な少女は黒いツインテールを跳ねさせながら陽気に答えた。
「ちゃぁんと森の前に来てますよ!大佐が大急ぎでっていうから特急で頑張っちゃいました!」
楽しそうにアニスが言い終えると彼女の背後から数名の兵士が現れた。
そのままルーク、ティア、そしての周囲を取り囲む。
「おいどういうことだ!」
「そこの二人を捕らえなさい、正体不明の第七音素を放出していたのは彼らです。
それとあなた、その仮面をとりなさい、正体はわかっています。」
「・・・・・・。」
ジェイドの言葉には何の抵抗も見せず自分の仮面に手を掛けた。
仮面を外すと同時にの肩に黒い艶をもった髪がかかる。
「え?!うそ女!!?」
ルークが場違いな声を上げている横でジェイドは言葉を続けた。
「ようやくみつけましたよ、大罪人、・プルーマ・ラペルソナ。」
「大罪人?!」
今度はティアが驚愕の声を出す。
「ジェイド!3人に乱暴な事は…!」
「ご安心くださいイオン様、何も殺そうと言う訳ではありませんから。…3人が暴れなければ。」
「「・・・・・・。」」
「いい子ですねー。…連行せよ。」
→Episode2
原作沿いって難しい。
我ながらなんちゅうぶった切った文章…orz
一応台詞とかゲームのメモって使ってるけど…。
さ、色々省略してるんで次タルタロスいきます。
余談というかおまけ
・は『大罪人』の称号を得ました